人類の進化(9)ホモ・サピエンス誕生

 化石の証拠から、ホモ・サピエンスは、およそ30万年前にアフリカで誕生し、およそ6万年前にアフリカを出て世界に広がり始めたと考えられています。しかしホモ・サピエンスは、誕生後にとんでもない絶滅の危機に見舞われていたのです。

 その危機とは、19万年前から始まった氷期による地球規模の気候変動です。温暖なアジアにはあまり影響がなく、そこに暮らしていたジャワ原人などにダメージはありませんでした。一方、ヨーロッパに進出していたネアンデルタール人はいち早く寒冷地に適応していたため生き延びることができました。

 しかし、アフリカにいたホモ・サピエンスは窮地に立ちました。氷期には赤道付近では乾燥化が進みます。アフリカの草原はどんどん砂漠へと変わっていったのです。ホモ・サピエンスはすみかを追いやられ、絶滅寸前の危機に陥ります。

そして、行き着いた場所のひとつが南アフリカ共和国の南端にある岬、ピナクル・ポイントです。この洞窟の奥深くで、絶滅寸前のサピエンスが逃げ込んだ遺跡が見つかりました。古代の炉のあとがあり、石器もたくさん出てきました。

 絶滅の危機に瀕したサピエンスは、どう生き延びたのでしょうか。研究者たちを驚かせた発見が貝殻です。16万年前の地層から出てきたのは、ここでもっとも多くとれるムール貝です。それまで森や草原に暮らしていた人類が決して口にすることのなかった食料でした。

 実は、アフリカでは貝が生息する場所が極めて限られています。祖先たちは幸運にも豊富に貝がとれる珍しい場所にたどり着きました。そして、たまたま巡り合った未知の食べ物を口にすることができた好奇心の強い者だけが生き残ったと考えられるのです。

このとき、サピエンスの人口はわずか1万人以下にまで激減したといわれます。その証拠は、私たちの遺伝子に刻まれています。地球上に80億人ものヒトがいるのに、遺伝子の違いがとても少ないのです。いったん激減した人口がその後急速に増えたため、見た目は違っても同じような遺伝子を持つヒトが多くなったというのです。

 見慣れぬ食べ物を口にする好奇心、それが祖先たちの生き残りにつながりました。私たちは皆その「好奇心あふれるヒト」の子孫なのです。

 

参考ウェブサイト、テレビ番組

誰かに話したくなる日本人のルーツ「人類の進化」 

https://okinosimatetsu.jimdofree.com/%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96/

NHKスペシャル 人類誕生 第1集「こうしてヒトが生まれた」